Semtech 技術情報
電子機器のESD保護は±2kV HBM で十分か、考え直す

設計者やシステム・エンジニアからよく寄せられる質問の1つに、電子機器のESD保護は±2kVで十分なのか?があります。この疑問に答えるには、製造工程および実環境におけるESD試験モデルを理解することが重要です。この記事では、頻繁に適用される 2 つの ESD 試験モデルである、デバイス・レベル ESD試験用の Human Body Model(HBM)と、システム・レベル ESD 試験の IEC 61000-4-2 モデルについて説明します。

どちらも、人体を通じて発生するESDイベントをシミュレートするように設計された試験環境になりますが、タイトルの質問に答える前に、これらの試験環境の詳細を説明し、ESDの基礎知識の説明から始めましょう!

1.ESD:静電気放電とは何か。

静電気の帯電量の高い物体が、帯電量の低い他の物体と近づくもしくは接触すると、電荷が一方の物体から他方へと流れます。この電荷の急激な再分布により、ごく短時間に急激に大電流が流れ、時には壊滅的なESD現象が発生します。
この高速な高電位の過渡現象は、影響を受ける電子機器の集積回路(IC)に深刻な損傷や劣化を与え、ESDによる重大な ダメージとなります。

1-1.人体モデル(HBM)による部品レベルのESD保護

集積回路は十分に管理されたクリーンな製造環境であっても、ESDに対して脆弱です。加工、組立、テスト、パッケージングは、どの製造工程でも ESD にさらされます。半導体業界では、特定の IC の ESD 耐性を判断するために、さまざまなテスト・モデルを使用して ESD イベントをシミュレートしています。すべてのICは、使用に適していることを証明するために、あるレベルのESD試験に耐える必要があります。
HBM は最も広く受け入れられている ESD 試験で、ESDが管理された製造工程においてICが耐えることを確認しています。 HBMは、帯電した人体がICに触れ、そのESDがICを通してグランドに放電されるというシナリオをシミュレートする試験セットアップを使用します。人体はESDの最も一般的な発生源のひとつであり、電荷の移動は接触のみを通じて起こる想定です。

ESD 敏感性シンボルマーク

三角形の中のハンドサインに斜線の引かれた標識です。電気または電子デバイス・組立部品が静電気によるダ メージに敏感であることを示すために使用されています。ESDS(ESD敏感性アイテム)であり、このアイテムを開封または取り扱うときに作業者は接地しなければならないことを示しています。また、ESD過敏性シンボルまたはESD警告シンボルとしての表示にも使われています。

HBM試験では、抵抗を介してコンデンサを放電させ、人体からICへのESDを模擬しています。試験電圧は±1kV〜±8kV程度です。HBMは以下のように100pFのコンデンサに試験電圧まで充電され、1500Ωの抵抗を介して被試験ICに放電されます。 このRCネットワークは、被試験デバイスに注入される帯電した人体を再現した電流源となります。デバイスは規定のESD電圧まで破壊することなく耐えなければなりません。

試験のセットアップを図2に示します。図3はこの試験の電流波形です。デバイス・レベルのHBM電流サージの立ち上がり時
間は5〜10nsで、減衰時間は約150nsです。

システムレベルのESD保護: IEC 61000-4-2

IEC 61000-4-2は、システムレベルの電子機器に人体モデルを使用するESD試験規格です。
このシステムレベルのESD規格も、HBMと同様、帯電した人が放電する様子を模擬しますが、テストでは、実際のアプリケーションでエンドユーザーの使用による電子機器が直面するさまざまな条件下で、機器内のICがESDの過渡現象に耐えることを保証する事を目的としています。このため、販売される電子機器は、実際に即した厳格な ESD のテストを行うことになります。

IEC 61000-4-2 試験セットアップでは、図4のように150pF のコンデンサを規定の電圧まで充電します。このコンデンサは 330Ωの抵抗を通 して部品ピンに放電されます。波形の立ち上がり時間は0.7〜1nsと速く、30nsに2回目のピークがあり、総持続時間はわずか60nsです。
システム・レベルの IEC 61000-4-2 試験セットアップ(図 4)では、デバイス・レベルの HBM 試験セットアップ(図 2)と比較して、よ
り大きな容量がより小さな抵抗を介して放電されることに注目してください。
このIEC61000-4-2の環境では電流波形の立ち上がり時間とピーク電流値が大きく変化しています。

IEC 61000-4-2では、接触放電と空気放電の2つの異なる試験と、各々4 つのレベル(レベル1〜レベル4)に分かれています。接触放電は、被試験デバイスに直接接触してESDテストガンから部品にESDを流す方法です。
気中放電は、接触放電試験を適用できない場合に使用されます。この場合、ESDテストガンを被試験部品に接触させず近づけて放電を行います。図 6は、接触放電と気中放電を示しています。

表1に、接触放電法と空気放電法の4つのレベルと試験電圧を示します。
この表は、8kVのレベル4接触放電が15kVの空気放電におおよそ等しいことを示しています。

電子機器の ESD 保護は HBM ±2kV で十分か?

HBMとIEC 61000-4-2の試験モデルの違いがわかったところで、デバイス・レベルとシステム・レベルの試験の±2kVのピーク電流レベルを確認してみましょう。
ピーク電流は、IC が ESD 試験に耐えるための重要なパラメータです。表2にピーク電流データの比較を示します。
表2を見ると、±2kVのHBMのピーク電流は1.33A、±2kVのシステムレベル(IEC61000-4-2)のピーク電流が7.5Aであることがわかります。
2kV HBMのピーク電流は、±2kV IEC 61000-4-2のパルス電流より5.6倍低いという事になります。表2からも、±8kV HBM試験のピークパルス電流(5.33A)は、±2kV IEC 61000-4-2レベルの試験(7.5A)よりも低いことがわかります。
つまり、たとえデバイスレベルのHBM試験の±8kVに合格するICでも、わずか±2kVのシステム・レベルのIEC 61000-4-2試験で損傷する可能性があるということです。

図7は±8kVの試験電圧における2つのピーク電流の波形比較です。このグラフから分かるように、IEC 61000-4-2の最初のピークは、非常に高い電流を伴い、立ち上がり時間の1ns未満で起こります。
HBMの最高ピークは約5〜10nsで発生し、ピーク電流はIEC 61000-4-2よりもはるかに小さいことが判ります。セカンドピーク電流は約18Aとなり、これはHBMのピーク電流よりもはるかに大きいことが判ります。
全体としても、IEC 61000-4-2のエネルギーは、HBMのよりもはるかに高いことが判ります。
そのため、システムレベルのESDから電子機器を保護するためには、より高速で大きなエネルギーを低抵抗で吸収できるESD保護素子が必要となります。

また試験回数についても考慮すべき重要な点です。デバイス・レベルの HBM では正負で 1 回ずつ試験が行われますが、 IEC 61000-4-2 では 最低 10 回正負のパルスでテストされます。 1 回の ESD パルスにICが耐えることが出来たとしても、繰り返し ESD パルスを受けると破損する可能性が上がります。

ESD 保護はHBMの±2kV で十分ですか? この最も簡単な答えは、設計者が、電子機器の ESD イベントに耐えられるかを判断するために、システム・レベルの IEC 61000-4-2 規格を考慮する必要がある、ということです。

半導体が一般的に許容する±2kVのデバイス・レベルのHBMは、ESDが管理された電子機器の製造過程に適します。
しかし、システム・レベルの IEC 61000-4-2は、ESDの管理が無い一般ユーザーによりIC が直面する厳しいESD環境で破壊しないことを実証するための試験となります。

昨今の半導体ノードプロセスの微細化、人体が触れる電子機器の一般化に伴い、電子機器をESDの脅威から保護することが極めて重要になっています。セムテックは、高性能で信頼性の高いESD保護製品のTVS(Transient Voltage Suppresser) のトップメーカーです。TVSにより、電子機器をシステムレベルのESDやEOSから保護することが可能となります。



Reference(参考文献)
Protecting IoT Devices from Electrostatic Discharge (semtech.com)
Semtech-Circuit-Protection-Product-Guide-2022_web.pdf

TVS サンプルブック 抽選にて無料提供中!

  Semtech TVS サンプルブック

現在、菱洋エレクトロでは TVS サンプルブックを無料でご提供しています。
下記3種を取り揃えておりますので、ぜひご応募ください。

〇車載TVSサンプルブック
〇産機TVSサンプルブック
〇民生TVSサンプルブック

ご応募に関する詳細はこちら

お問い合わせ・資料請求はこちら

ページの先頭へ戻る