Semtech 技術記事連載 第3話
TVSのPeak Pulse Power(ピークパルス電力)は高ければ高いほどいい?

TVSで最も誤解されている定格の1つに、Peak Pulse Power(PPP)があります。
私たちは、主にデータシート上のPeak Pulse Powerに基づいてESD保護素子を選択すれば、電子機器を十分に保護できると思っています。
確かに、Peak Pulse Powerが高いほどデバイスは高い過渡電力をGNDに流せるため、優れているはずだと考えるのは論理的に思えますし、実際そのように考えている方々は少なくありません。
しかし、Peak Pulse Powerは選択の際に検討、比較するパラメータの1つではありますが、このパラメータのみでデバイスを選択すべきではありません。
その理由を説明するために、TVSのPeak Pulse Powerの定義を確認していきたいと思います

TVS におけるPeak Pulse Power(PPP)とは?

TVS のPeak Pulse Powerは、所定のパルス条件でデバイスに散逸・分散(dissipate)する瞬時電力として定義され、過渡事象中にTVS接合部にかかる電力の尺度です。
Peak Pulse Power は以下の関係式で算出されます。

図1 PPP = Peak Pulse Power (W)、VC = Clamping電圧 (V)、IPP = Peak Pules 電流 (A)

通常動作時の条件では、TVS は保護対象ICに対して高インピーダンスです。電気的過渡ストレス(EOS)発生時、電圧がTVSの降伏電圧(Breakdown Voltage)を超えると、デバイスは「オン」になり、過渡電流をグランドに流し、グランドに対して低インピーダンス経路を供給します。
この電流は「Peak Pules 電流」と定義されます。指定のPeak Pules 電流でデバイスのGND間に発生する電圧がClamping電圧です。Clamping電圧は、保護対象ICの故障する電圧よりも低くなければいけません。
TVSメーカーは、高いPeak Pules 電流能力を維持しながら、TVSのClamping電圧を下げる技術を開発するために、日々多大な努力を行っています。

図2: TVS の接続

まず、Peak Pules 電流波形がどのように規定されるかをよく理解することが重要となります。
過渡状態では、TVSは接合部を介してグランドに電力を散逸(dissipate)します。TVSの接合部は、所定のサイズでより高い散逸(dissipate)エネルギーを扱うように設計されています。

あるパルスまたはパルス幅におけるIPPとVCの積をPPPとして定義しています(図1)。
この場合、パルスの持続時間(幅)が時間です。PPPのエネルギーは電力に時間を掛けたものであるため、デバイスのエネルギー処理能力を定量化する間接的な手法です。
TVSのIPPおよびPPP定格は、二重指数波形を使用して定義されており、IEC 61000-4-5でも一般的に使用されています。
IEC 61000-4-5の標準電流波形は、図3に示すように、8µSの立ち上がり時間と20µSの減衰(8/20µs)を持つ二重指数波形です。

図3:二重指数波形(IEC 規格より引用: 電磁両立性(EMC)-第 4-5 部:試験及び測定技術-サージイミュニティ試験,IEC 61000-4-5 Short,2014 年)。

Peak Pules Powerの考え方の例

実際の例として、図4に示すPeak Pules 電流対Clamping電圧のIV特性を考えてみましょう。
この例では、TVSを選択するための3つのオプション(TVS 1、TVS 2、TVS 3)を検討します。保護対象ICの故障電圧は14Vで、アプリケーションはIEC61000-4-5に従い10Aのサージ試験電流(8/20uS)を必要とします。

各TVSデバイスのブレークダウン電圧は約7Vで、IEC 61000-4-5の最大Peak Pules 電流(8/20uS)の定格は20Aです。
・TVS 1:PPP定格は20Aパルスで300W(PPP = 20A * 15V)
・TVS 2:PPP定格は20Aパルスで400W(PPP = 20A * 20V)
・TVS3:PPP定格は20Aパルスで500W(PPP = 20A * 25V)

・TVS 1は低いクランプ特性で、デバイスが10Aの要件をはるかに上回る17AのIPPまで、14VのIC故障電圧に達しません。
・TVS 2は11A弱まで14VのClamping電圧に達しません。理論的には、このデバイスはICを保護しますが、設計マージンはほとんどないといえます。
・TVS 3は約7AのIPPで14Vをクランプします。言い換えれば、TVSは損傷しませんが、10Aのパルスで保護対象のICが損傷する可能性があります。このシナリオでは、TVS 2(400W)およびTVS 3(500W)と比較すると、ピークパルス電力定格が低いにもかかわらず、TVS 1(300W)が最適なソリューションとなります。

図4:IV Clamping特性グラフ

上記の例は、Clamping電圧が低いTVSほど PPP 定格は低く計算されるが、実際のICの保護能力は高くなるという結果を示しています。
そのため、ピークパルスパワー定格とは、TVS自身が損傷することなく吸収できる電力量の尺度であり、TVSが保護対象ICを保護できるかどうかを予測するものではないということがわかります。(図5)

図5:TVSの保護能力の向上がPPP値を低くする

TVSがどの程度、保護対象ICを保護できるかの尺度として、与えられた電流に対するClamping電圧の低さに注目することがより重要となります。そのためTVSのデータシートには8/20usや0.2/100nsなど指定パルス印可時の電流とそのクランプ電圧(Vc)、100nsのパルスを使用したTLP(Transmission Line Pulse)のグラフを記載している製品が多くあります。

いかがでしたでしょうか?
TVSを選定される際には、Peak Pulse Powerだけでなく、指定パルス印可時の電流とそのクランプ電圧、TLPのグラフなど、保護対象のICを保護できるかの情報をデータシートから確認することをお薦めします。

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